日本の「デフレ」について考える

デフレに黄色信号

   牛丼の吉野家が「豚丼」を復活させたとして、話題になっています。

問題は、一つのメニューを復活させたということだけではなく、安い豚丼が再登場したことで、日本経済がデフレから脱却する道が険しくなったということです。

改めて、日本における「デフレ」を考えてみます。

「デフレ」の定義とは?

   経済学者の竹中平蔵氏は「デフレという言葉を使う場合、単に物価が下がるという意味だけでなく、物価が下がることと経済の悪化が一体となっている状態を指す場合もある」と指摘していています。

経済学者の円居総一氏は、「デフレは、貨幣・経済の収縮現象と捉えたほうが理解しやすい」と指摘しています。

また森永卓郎氏は、「デフレとは、物価の下落と需要の縮小が同時に進行する状態である」と指摘しています。

経済学者の高橋洋一氏は、「デプレッション(不況)のことをデフレと言う人が多い」と指摘しています。

経済学者の飯田泰之は「『デフレ=不況の別称』という定義を持ち出される事が多いが、このような定義を用いるのは誤りである。『物価水準は下がり続けているが(景気はいいので)デフレではない』『インフレによって消費が減少しデフレになる』と言及されることがあるが、IMF・内閣府流の公式用語法に従う者からするとこれらの言及は誤りである」と指摘しています。

消費者物価とは、様々な消費財・サービスの価格をそれらの財・サービスに対する支出の割合で加重平均した価格です。

消費財の一部の価格が下落しても、他の消費財・サービスの価格が上昇すれば、消費者物価は上昇することもあります。

経済学者の岩田規久男氏は、著書「デフレの経済学」で「相対価格の変化と絶対価格の変化とを区別することが重要である。平均的な価格である物価が相対価格の変化によって影響を受ける理由はない」と指摘しています。

高橋洋一氏は、「ミクロ(個別価格/相対価格)とマクロ(一般物価)の混同は経済学者の議論の場でも時々見られるが、ミクロの個別価格の平均としてマクロの物価があると思い込むのは短絡的である」と指摘しています。白川方明元日銀総裁は「デフレには様々な定義があり、一概には定まらない」と指摘しています。

経済ジャーナリストの田村秀男氏は、「デフレを物価下落に限定せず、賃金・所得が物価下落を上回る速度で継続的に下がることと定義すべきだ」と主張しています。

田村は「デフレは雇用にとって悪だ」と断じたジョン・メイナード・ケインズの見解を参考にしています。メディアで「食のデフレ」などと言った表現がなされる場合がありますが、デフレとは相対価格(個別価格)ではなく一般物価水準(または総合物価)の下落を指しているので本来の意味からすれば誤用です。

「デフレ」の影響

デフレの弊害は現金の価値が上がりすぎて、モノやサービスや、それに関わる人の価値が下がり過ぎていることにあります。

経済学者の田中秀臣氏は、「デフレとはカネを持つことへの執着である」と指摘しています。

個々人では、デフレによって好影響が悪影響を上回る者、あるいはその逆の者が存在します。

一方で、社会全体では一般に悪影響が大きいと言われます。

デフレ下では、所得が抑制されるため、選択の幅が限定され一人勝ちを生みやすいのです。

物価の下落は、実質的な返済負担増となります。

そのため、借り手である債務者から貸し手である債権者への富の再配分が発生します。

物価下落によって実質金利が上昇します。

なお、たとえば1万円で買えるものの量が増えるから一見メリットがあるように見えることは、実際にはその1万円を稼ぐこと自体が困難になるため、デフレで有利になるとは言えません。

デフレは名目的には低い金利に見えても、お金の借り手にとっての負担はデフレの分だけ重くなります。

この場合の借り手には、政府も含まれます。

デフレの状況は税収が上がらないので、財政再建にとっては大きなマイナス要因です。

経済学者の深尾光洋氏は、「デフレを放置することは、政府の信用の失墜を放置するということである」と指摘しています。

経済学者の猪木武徳氏は、「デフレが悪化すると、政府への信任が失われるのは、インフレの悪化と同様である。インフレもデフレもその論理は異なるものの、統治への信任の喪失という点では同じ影響力を持つ」と指摘しています。

「デフレ」のメリット・デメリット

物価下落により実質金利(実質利回り、(名目金利-期待インフレ率)が上昇する、すなわち同額の名目利子の受け取りであっても実質価値が上昇します。

また、デフレの局面では物価下落を織り込んだ金利が形成されるため、市中金利は低下します。

そのため、国債などの債券を保有している者は、(高利回り)債券の価格が上昇して利益となります。

名目額(名目賃金)が固定された収入がある者も、物価の下落(実質賃金の上昇)により実質的な生活水準が向上します。

  物価下落は名目値の硬直性と衝突して企業収益を停滞させ、国民の雇用と所得を減退させます。

住宅ローンなどで債務を抱える者は、物価の下落によって実質的な債務が増大します。

名目金利の低下により、市中変動型の債権(普通預金など)の利子収入は減少します。

岩田規久男氏は「現在と将来の所得が変わらなければ、デフレのほうがたくさんモノが買えるため良いが、所得は物価の変動によって影響を受ける。さらに企業の倒産・失業、預金・生命保険の安全性、将来の年金などがデフレによって悪影響を受ける」と指摘しています。

岩田氏は、「物価が下落しても失業によって所得が無くなれば実質所得はゼロとなり、生活が困窮するだけである」と指摘しています。

日本の「デフレ」不況の原因

1990年後半以降、日本の金融機関は公的資金の投入を受けながら、不良債権の圧縮と経営基盤の強化に努めましたが、その影響は信用収縮による長期デフレという形でマクロ経済に波及しました。

GDPデフレーターという総合的な物価指標で見た場合1997年の消費税引き上げという特殊要因を除けば日本のデフレは1994年第3四半期から続いています。

デフレ現象が現実に起こった国は第二次世界大戦後においては、1990年代以降の日本以外にありません。

明治大学国際総合研究所フェローの岡部直明氏は、デフレが起きる要因として、1)需要要因、2)供給要因、3)貨幣要因・金融要因、の3つを挙げています。岡部直明は「日本のデフレはすべてが絡みあった『複合デフレ』といえる」と指摘しています。

大和総研は「デフレの遠因として、長期的に続く円高傾向が挙げられる」と指摘しています。

白川方明日銀総裁は、日本のデフレの原因について、規制緩和などによる、内外価格差の縮小、労使の雇用確保の重視による、サービス産業などの賃金低下、バブル崩壊後の国民の自身に喪失による、需要不足の発生を挙げています。

2012年4月21日、ワシントンで行われたフランス銀行主催のパネルディスカッションで、白川氏は日本について「人々が将来の財政状況への不安から支出を抑制し、そのことが低成長と緩やかなデフレの一因になっている」と述べています。

2012年6月4日、白川氏は都内の講演で、「少子高齢化とグローバル化という構造変化への対応が遅れていることが、低成長、ひいてはデフレの基本的な原因」と指摘しています。

池尾和人氏も同様の指摘をしています。

池尾和人氏は、「デフレの原因は需要が弱いことであり、それは日本の供給力が弱いからである」と指摘しています。

経済学者の齊藤誠氏は、デフレの原因について「資源価格の上昇と国際競争力の低下による海外への所得流出にある」とし「金融政策で克服するのは難しい」と述べています。

森永卓郎氏は、「1997年には、橋本内閣が消費税率引き上げ、医療費の本人負担の3割への引き上げ、特別減税の廃止という、9兆円のデフレ政策をぶつけて、15年にわたるデフレを引き起こした」と指摘しています。

1997年から始まった日本の金融危機について、FRBが研究を行ってきたことは広く知られており、危機が訪れたとき、デフレ阻止に向けて急速な金融緩和を行うべきであるという結論は、インターネット・バブル崩壊と「世界デフレ」の危機に関しては予期した以上の成果へ結びつきました。

FRBは2002年7月に「デフレ防止策について1990年代の日本の経験の教訓」というFRBスタッフによるディスカッションペーパーを公表し、そのなかで日銀が阪神・淡路大震災後も金融スタンスを変えなかったことや、1997年に消費税を増税したことに言及し、財政構造改革の政策スタンスを転換し所得・消費税等を引き下げることにより、経済を刺激できた可能性について言及しています。

田中秀臣氏などは、この論文を引用し1990年代のこれらの政策態度により日本は完全な長期停滞に突入したと論じています。

経済学者の松尾匡氏は、「民主党政権の財政削減、紙幣発行の引き締め、官僚批判、規制緩和、コミュニティやNPOによる公財政の身代わり、エコロジー志向といった路線の姿勢は、人々がモノやサービスを買おうとする力を停滞させ、デフレ不況を深刻化させた。倒産や失業や不安定な雇用に苦しむたくさんの人々の期待を裏切った」と指摘しています。

岩田規久男氏は、「2011年3月現在の日本経済はデフレの状態にあるが、デフレの最中の増税によって内需が減少すれば、一層のデフレになる」と指摘しています。

「デフレ」脱却のためには?

   日本経済がデフレを脱却するためには、政府の思い切った政策が必要です。